【ボルテSS】幸福の雪吹雪に包まれて
※この記事は Tonevo Advent Calender 2022 の17日目の記事となっております。ぜひ他の記事もご覧ください。
また、以下の点にご注意ください。
・妄想要素が多分に含まれています。
・恋愛要素も出てきますので解釈違いにお気を付けください。
前書き
みなさんこんにちは。とんえぼ所属のZUKAです。今回はアーケード音ゲーの SOUND VOLTEX (以下SDVX,ボルテと表記) についての記事ですが、音ゲー要素はありません。というか記事ですらないです。短い小説 (SS) です。それでも読むぜ!という心優しい方はぜひ楽しんでいってください!
このSSは、SDVXに登場するキャラクターのグレイスと京終始果の2人がメインとなり、互いに恋愛的に意識し始めるまでの過程やクリスマスに2人で出かけに行く話となっています。
ここで簡単にはるグレとはなにか解説をしておきます。はるグレは「京終始果×グレイス」のカップリングのことです。グレイスとはSDVXの途中から登場したキャラクターで今ではSDVXのメインキャラの1人です。そしてそのグレイスが大好きで大好きで仕方ないのが京終始果君なのです。
なお、はるグレの関係性についてより詳しく知りたい方は私が以前書いた記事の途中に詳しく解説しておりますので、興味があればぜひ読んでみてください。
なお、このSSはpixivの方にも投稿しております。内容は変わりませんがそちらの方もよろしくお願いします。
#SDVX #グレイス 幸福の雪吹雪に包まれて - ZUKAの小説 - pixiv
準備はできましたか?
それでは、2人が織りなす、あとがきのない世界へあなたをご招待いたします。ぜひ楽しんでください。
本文
この世に四季があるようにネメシスにも四季がある。この時期になると人々は服をより厚くし、外より暖かい部屋で過ごそうとするようになっていく。もっとも、わうぅと吠えながら雪山で動き回る犬や、人のぬくもりを知った雪女にとっては絶好の季節でもあるのだが。
とはいえそんなのは少数派で、大抵は寒さに苦しめられることになる。それは、こんなところにもいた。
「最近のこの世界も寒くなってきたわね」
「そうですね……はー……吐く息も白いです」
「どうにかならないのかしら」
躑躅色の髪を揺らしながらもこもこの服に身をまとう愛しい雰囲気の少女の名前はグレイス。最近はナビゲーターになったことで時期を問わず忙しい模様だが今は休みを堪能している。そしてそんな少女の隣に立つ、儚げながらも美しい雰囲気の少年の名前は京終始果。現在はボルテ学園の高校部に所属しており徐々に学生生活に慣れてはきているがグレイスに抱く恋心は相変わらずである。
「グレイス、大丈夫ですか?よければ僕の上着を……」
「だ、大丈夫だから!それこそ始果は寒くないの?」
「いえ僕のことは気にせず……クチュン!」
「始果もやっぱり寒いじゃない!無理しちゃダメって決めたのに」
「それでも」
「いい!?始果は自分を大切にするって約束を守ってよね?私も始果の事が心配なんだから」
「……はい。これから気を付けますね。では……」
緊張しながらも始果が差し出したのは己の手。
「手をつなぎませんか?」
2人の顔が少し赤らんだ。手が少し震えるのは寒さ故か、それとも。
かつてのグレイスと始果の関係性はいうなれば主と従の関係にあった。グレイスをリーダーとするグループはバグを駆使してネメシスに乗り込み制圧を図ろうとしたのである。ちなみに結果は失敗に終わりメンバーは皆今のネメシスで過ごしている。
住む場所が変わってからグレイスと始果はかつては知らなかった面をお互いに知るようになった。以前では気づけなかったお互いの面に気づくようになった。始果はグレイスのあどけなさや幼いところ、グレイスは始果の素直さや無垢なところ、といったところである。
そうして年月を重ねていき、互いの心に名前が付けられない感情――少なくとも始果は恋心だろうが――が芽生えていったある日のこと。始果が再びバグに侵される事件が起きてしまった。かつての自分の姿である、バグを取り込みグレイスへの病的な愛を抱く始果に対してグレイスは紫髪のアンドロイドなど他のメンバーの力を借りてなんとか救出することができた。
「グレイス、僕はどうしてたんでしょうか……?」
「始果が何ともないのならそれでいいわ。もう本当に心配したんだから!」
「……すみません、あまり覚えてなくてよくわからないんです……」
「まあいいわ。みんな無事だったし気にしなくていいわよ」
始果が無事で安心するグレイス。しばらく喋っていると始果はグレイスの声色が徐々にか細くなっていくのを感じた。
「グレイス?大丈夫ですか?心なしか気持ちが沈んでいるような」
「……大丈夫よ、今は。ただ、始果が大変なことになったと聞いたときは、さすがに大丈夫ではなかったわね。」
「……心配させてしまいましたね」
「本当よ、もう!始果がどっか行っちゃうんじゃないかって思ったんだから!」
ここにきてグレイスは心の内を守る防壁が壊れ、押さえていた気持ちと涙がどっとあふれてきた。思わず始果に抱き着くグレイス。始果はそんなグレイスの後ろに手を回し優しく抱く。
「始果がいなくなるかも、と聞いてここまで辛くなったのは自分でも意外だったわ。以前だったらここまでとは思わないし……」
「僕もグレイスが助けてくれた時の安心感もすごく感じて……」
始果に抱かれながら涙を流すグレイス。無言の雰囲気にのまれつつしばらくそのままの2人。ぽつりと始果が話し始める。
「このバグに侵される前は、君に恋心を抱いていました。ただ今回の件で、グレイスの事を考えているときの気持ちが恋なのか、はたまた違うものになったのか分からなくなったんです。これが何なのかはまだわかりません。でも、もしかしたら、これが俗にいう愛に変わったかもしれない、って思ったんです」
「……なら私が今抱いている気持ちも、その愛とやらかもしれないわね」
2人に芽生えているのが本当に愛なのかは誰もわからない。だが本当に大事なのはそれが本当に愛なのかではなく。
「もしグレイスが良ければ、一緒に帰りませんか?」
「いいわよ。私もそんな気分だったし」
そこからどう行動するかが大事ではないだろうか。
そこからの2人は互いをより意識するようになっていき、無意識に距離が近くなったりより一緒にいるようになっていった。周りからはいわゆる付き合っている状態に見えるのも無理はないぐらいの距離感ではあるが、2人の間では告白もしていないためその意識はないものの、気づかないところでそのような気持ちになっているかもしれない。
そんな関係性の中での冒頭の会話。いわゆる恋人らしい行動が増えてきたあたりで互いに照れながら歩いていると、明らかに準備が早すぎるあるものを見つけた。
「そういえばもうすぐクリスマスね」
「サンタさんって本当にいるんでしょうかね?」
「私はいるって信じているわよ。何をお願いするか考えとかないとね!」
「はぁ……」
サンタさんがいると信じているグレイスと、半信半疑な始果。世間的にはグレイスほどの年齢だと既に信じている人は少ないが始果は何も言わないことにした。
「ちなみに始果は欲しいものとかあるのかしら?」
「僕は欲しいものがあまりないので……ただプレゼントを貰えたことだけでとっても嬉しいです。そういうグレイスはなにかあるんですか?」
「そう言われると悩むわね。でも私も貰えたらそれだけで嬉しいと思うわ」
「プレゼントは、貰えるだけで嬉しいもの……」
しばらく無言の空間ができあがる。相手にプレゼントをあげたら喜んでくれることが分かったため、言葉にはしないがサプライズで喜んでもらおうと考えていたのだ。ただし、それはお互いに。
「……ス!グレイス!」
「ん?私寝てた!?」
「そうデスよ!最近あまり寝れてないんじゃないデスか?」
グレイスは共にナビゲーターを務めるレイシスとネメシスの勉強会を開き勉強にいそしんでいた……が気づいたらうたた寝をしてしまっていた。
「最近のグレイス、少し疲れているような気がしマスけど、悩みとかないデスか?」
「さ、最近あまり寝れてないだけだし気にしなくていいわよ!」
本当である。というのも始果にあげるプレゼントをどうしようか悩んでおり、なかなか決まらず調べるうちに睡眠時間が短くなっていったのである。
「それなら大丈夫そうデスが……なんかあったら言ってくださいネ!」
屈託のない笑顔を見せるレイシス。その笑みは、もしかしたら頼れるかもとグレイスに思わせるには十分だった。
「じ、実はね?最近仲のいい子からきいたのだけれど、クリスマスに仲のいい男の子にあげるプレゼントで悩んでるらしいの。その相談に乗ってたのよね……」
嘘である。よくある友達に話を置き換えて相談を持ち掛けるパターンである。これを聞いたレイシスはおそらくグレイスのことだな、と気づいた。
「相手の男の子はね、物静かな感じなんだけどその友達のことが大好きな子なんだけど……」
レイシスの予想が確信に変わった。そういえばグレイスの周りにはグレイス大好きな忍びの者がいたな、とレイシスは思った。
「多分そこまで好きなら頑張って友達が作れば何をあげても喜ぶと思いマスよ?」
「そ、そうかしら?でもせっかくなら普段から使えそうなものをあげたい……って友達が言ってたわね」
「そうなんですネ……それだったらせっかく冬の季節ですし……」
レイシスが候補をあげるとグレイスの目が輝き始めた。
「それだわ!それなら確かに喜んでもらえそうね!」
友達という設定はどこへ消えたのだろう、グレイスが嬉しそうな声をあげる。グレイスに恋愛テクニックは向いてないな、と思いながらレイシスは笑顔でそれならよかった、と答えた。指摘しなかったのは優しさ故である。
「烈風刀はレイシスに何をあげるか決まってますか?」
「い、いきなりどうしたんですか!?」
一方その忍びの者は青髪の男の子に尋ねていた。グレイスとは対照的にストレートに包み隠さず聞いてくるのは彼が好きな人をいう事に対して照れという気持ちがあまりないからだろう。
「グレイスにプレゼントをあげたいんですけど、何をあげようか迷っていて……それで烈風刀に聞いて参考にしようと思ったんです」
「それで僕に聞いてきたんですね……」
少し困ったような、照れも入ったような表情を浮かべるのは嬬武器烈風刀。始果と同じ高等部で、グレイスがネメシスに攻め込んでいた際はライバル関係にあった2人だったがその後は高等部に入りたての始果をサポートする形で関りを持つようになり、困ったときの相談相手になっていたのだった。
「僕はいままでプレゼントのようなものをあげたことがなくて……なので君に聞いてみました」
「僕で良ければになるんですが……プレゼントで一番大事なのって、やはり気持ちだと思うんです」
烈風刀は始果の目を見て語り始める。
「送る相手へどんな気持ちになってもらいたいか、それを沢山考えて選んだり作ったりしたものならどんなものでも喜んでもらえると思うんです。だから京終君がグレイスのどんな顔が見たいか、それを忘れずにいれば大丈夫だと思いますよ」
少し熱くなりながら烈風刀はそう伝えた。それを聞いた始果はというと。
「……それで具体的にはどんなものを?」
「えっ」
あまり始果には刺さらなかったようだ。
「言われなくてもグレイスの喜んだ顔が見たいなんて当然です。そのうえで悩んでたんで相談したんですけど……」
真剣な顔で始果は言う。彼にとって相手の事を考えるのは日ごろから当然のようにやっているため相手を思うなんて当然だ、と脳内では考えていた。そういえば君はそんな人だったな、と烈風刀は改めて痛感させられた。
「確かに君ならそんなことは当たり前でしたね。それなら……やはりグレイスの好きなものやことにまつわるものが良いと思いますよ。あとは、グレイスに身に着けてほしいものとかをあげてもいいかもしれませんね」
少し悩みつつも烈風刀は候補を挙げていく。
「どうです?この中でよさそうなのはありましたか?」
「はい。喜んでそうなものを思いつきました。」
「それはよかったです。ちなみに何を?」
すると始果は烈風刀に小さな声で伝える。
「なるほど。確かにグレイスに似合いそうで良いですね。ですが君はこういうのを作り慣れてないのでは?」
「承知の上です。絶対に作り切ります」
「では、頑張って下さいね。困ったらまた言ってくださいね?」
「はい。烈風刀、ありがとうございました」
満足そうに始果は烈風刀と別れた。彼の頭の中ではどうやって完成させようか、どのようなものにしようかで頭が埋め尽くされていた。
年一回訪れる積もりに積もった雪の中で、積もりに積もった思いを伝えあう人も多い聖なる日。ボルテ学園も冬休みに入り休みを満喫する生徒が多い中、学園の門の前で待ち合わせる2人組がいた。
「なんで既にもういるのよ」
「グレイスを寒い中待たせるわけにはいきませんから……」
「だからって早く来すぎよ!なんで30分前からいるのよ!」
「この時間ならグレイスを待たせなくて済むかと」
「私の事心配してくれるのはありがたいけど、それはそれとしてそんな無理なんてしなくていいのよ!」
「……わかりました。これから気を付けますね」
始果は、そういうグレイスも30分も早く来てることを言おうかと思ったが心の奥にその言葉をしまって少し笑いながら、なんやかんやで楽しみにしているグレイスの後をついていった。
聖なるこの日に2人は一緒に出掛けることになった。もともとはグレイスが仲のいいグレイスの仲間に連絡をしたのだがたまたま空いているのが始果だけであり、結果的にはデートのような形になったのだ。もっとも、本当に予定が被っていたのかは不明である。
最近はあまりなかった2人きりのシチュエーション。そこからあふれ出るのは緊張や照れの類のもので、一緒に歩き始めるもいままでよりも2人の間に交わされる言葉は少なかった。あの始果がバグに侵される一件から関係性が進んだはずなのに、会話のペースはどんどん遅くなっていった。
ぽつぽつと言葉を垂らしていくうちに目的地が見えた。カラオケである。グレイスが学園祭などのステージに立つようになってからグレイスはよく行くようになったが、始果はほとんど経験がなかった。
グレイスのテンションが上がったようで、楽しそうな表情を見せる。それを見守る始果。
「それじゃ早速歌うわよ!」
そう言いながら既にマイクを持ちデンモクには歌う予定の曲を入れており、もはや確認の意味をなしてない。
「始果も歌いたい曲いれときなさいよ?」
「歌いたい曲、ですか……」
グレイスはライブなどで歌う機会も多く、歌うことが好きではあったが一方の始果は特にそういうのはなかった。男声の曲で歌えそうな曲を探すがなかなか見つからない。
「あれ、始果まだ決めてなかったの?」
「あ、すみません……」
悩んでいる間にグレイスはどうやら歌い終わったようだ。
「いままでこういうことがあまりなかったもので……」
「こういうのは思い切りよ!始果なら大丈夫だって!」
「そう言ってもらえると嬉しいです。では……」
そういって始果が選んだ曲が流れ始める。
「喉元にナイフを突きつけて……」
いつになく真剣に歌う始果。グレイスは、この曲は確かギターが上手で女性にアタックを仕掛け続けている男が演奏していた気がすると思い出した。部屋は始果の少し儚げな歌声と激しい楽器の音で満ちる。ようやく歌い切った始果の表情は、歌う前にはなかった楽しさが加わっていた。
「案外歌うのも悪くないですね」
「その調子よ!さあこっからどんどん歌うわよ!」
以降、各々好きな曲を歌っては音楽を楽しむという時間を過ごした。出会ってからの気まずさはどこへやら、純粋に楽しむ2人の姿がそこにはあった。
こうしてカラオケを堪能した2人はお店を出ると、ボルテ学園生徒御用達の近場のカフェに向かうことにした。クリスマスでも普段通り営業しているが、店の混み具合はさすがに普段より密度が高くなっていた。
「いらっしゃいませ~」
混雑した店内に響き渡る、休むことなく働くウェイトレスの声。絶対本名で呼んではいけない、という噂もある彼女に導かれてテーブルを介して向かい合わせで座る2人。
「始果は何か飲みたいものはあるの?」
「グレイスに合わせますよ」
「結構甘いけど大丈夫かしら?」
「うっ、甘いものですか……なんとか飲み切ります」
「ほんっとうに甘いわよ?本当に残さない?」
「……ココアにします」
グレイスからの強い強い圧を受けた始果。といってもここのお店はなにやらお残し厳禁だそうだ。
「ご注文はどうしますか?」
「私はカフェラテで」
「僕はココアで」
「かしこまりました~」
注文を受けたウェイトレスがキッチンに戻り、小さな2人きりの空間が出来上がる。
「にしても始果が色んな曲を歌ってて少しびっくりしたわ」
「グレイスがライブに出た際に他の方が歌ってたのを思い出しただけですよ」
「確かに始果は毎回私が出るライブにいるわね」
「勿論ですよ、だってグレイスの事を少しも見逃したくないですから」
「確かに聞くまでもなかったわね――」
「でも」
本当にあなたは私が好きなのね、と言葉を紡ごうとするグレイスの前に始果が先に口を開いた。
「いざライブに行ってみるとグレイス以外の皆さんのパフォーマンスも素晴らしかったです。アーティストの名前までは覚えてないですが……」
少し照れながら始果が言う。
「始果……変わったわね。いい意味で」
「グレイスがいたからこそではありますが」
「そんなの関係ないわ。いっそのこと始果もライブに出てみたら?」
「それは遠慮しておきます。今は皆さんの曲を聴いてみたいので。それに変わったというならグレイスもですよ」
「えっ私?」
突如ターゲットが切り替わり驚くグレイス。とそこに先ほどのウェイトレスが飲み物を持ってきた。
「ごゆっくりどうぞ~」
オーダーした飲み物を口に運ぶ2人。やはり人気なだけあって味は素晴らしく、ほぼ同時に美味しいという言葉が自然に漏れた。カップの液体が2, 3割消えたあたりでグレイスが尋ねる。
「それで、さっきのはどういうことかしら?」
「だって以前よりも自分の気持ちを正直に出すことが増えてる、そんな気がするんです」
「そう……なのかしら?あまり自覚はないけれど始果がそう言うならそうだと思う。人と会ったり喋ったりすることも増えたし」
「たくさんの人、ですね」
少しだけ、グレイス以外は気づかないほど始果の顔が暗くなった。もしかしたら本人ですら気づいていないほどかもしれないが、心の奥底では少しだけ、その言葉がわずかに刺さっていたのだった。
「でもやっぱり」
雰囲気を変えようとしたのか、はたまた単に気になっただけなのか、グレイスが始果に話しかける。
「前から付き合いのある始果は特別だとは思ってるわよ」
そうグレイスは外の景色を見ながら伝え、まだ温かい頼んだカフェラテを口に入れた。その仕草は少しの照れを隠すかのように見えた。
「……ありがとうございます」
グレイスの言葉を受け止めた始果はただ一言、短いながらも端的に伝えた。少しだけ、グレイス以外は気づかないほど始果の顔に赤みが増した。もしかしたら本人ですら気づいていないほどかもしれないが、心の奥底では少しだけ、その言葉がわずかに刺さっていたのだった。僅かに照れているグレイスも可愛らしいがそのままにするわけにもいかず、始果が話しかける。
「にしてもこのお店のココア、甘いです」
「このお店は甘く作られてるのよね。カフェラテ一口飲んでみるかしら?」
「では一口いただきます」
その後残ったのは、少年の言葉にできない小さな悲鳴と、平然とカフェラテを飲んでいたグレイスへの懐疑的な眼差しであった。
その後会計を済ませ店を出ると既に陽は沈み、ネメシス世界の表面が白一色に変わっていた。
「これからどうしますか?グレイス」
「そうねえ、どうしようかしら……」
「グレイス?なんかそわそわしてません?大丈夫ですか?」
「そ、そんなことないわよ!気にしなくていいわ……」
明らかに落ち着きがない様子のグレイス。始果を喜ばせようとひそかに入れているプレゼントを隠したままどうしようか頭をフル回転させ、とある場所を思いつく。
「あーそういえばこの近くにイルミネーションがあったわよね。そこに行かない?」
「いいですね。では行きましょうか」
携帯片手にネメシスのイルミネーションがある場所へ向かう。2人いないとできない方法で手を暖かくする。男女一対の組に流されながら赤と青の光に導かれ、ペアがこの世に生まれる場所にたどり着いた。
「イルミネーションってこんな感じなのね!色んな光が重なり合って綺麗ね!」
虹霓のナナイロの光を見てテンションが上がるグレイスと、光の煌めきに目を輝かせる様子を優しく見守る始果。
「確かに綺麗ですね。これだけの光があると圧倒されます」
「イルミネーションってこんなすごかったのね……知らなかったわ」
その後も幼気な様子ではしゃぐグレイスと静かに楽しむ始果は会場周りを散策した。一通り楽しんだのち、ここからどうしようかという疑問が生まれてくる。
「さてグレイスこれからどうしましょう?」
「そろそろお開きにしてもいいかもしれないわね」
カラオケにカフェにイルミネーションに、普段とは違うイベントを2人きりで楽しんだ時間もそろそろ終わりを迎える気配が漂う。
「グレイス?どうしました?」
「……」
そんな中グレイスはプレゼントをいつ渡そうか、というよりプレゼントを渡そうか悩んでいた。ここにきて急に不安の波が押し寄せる。もし気に入ってもらえなかったら?もし苦い顔をされたら?始果は絶対に喜んでくれる自信があったのに、突如なくなっていく。
グレイスが悩んでいると、にわかに髪の毛に変化があったのを感じた。原因を探ってみると、そこには深紅のシュシュが付いてあったのだ。ビビッドなピンクの髪にアクセントを加わる。
「なにこれ!?もしかして、始果が?」
「ああ、はい。グレイスに渡そうと思っていたのですが忘れていまして。どうですか?」
少し相手の反応を確かめるようにちらっとこちらを見る始果。最初に出てきた感情はやはり。
「ありがとう!自分で言うのも変だけどよく似合ってると思うわ!」
「そうですか!よかった……」
安心した様子を見せる始果。やはり他人に喜んでもらえるというのは気持ちがいいものだ。
「クリスマスですしグレイスに喜んでもらいたい思いで頑張りました。君のその顔を見れただけで十分です」
「これは大切にしなきゃね!」
満面の笑みでそう話すグレイスは、既に不安など吹っ切れた様子だった。
「まさか始果から貰えるとは思ってなかったけど……実は私もあるのよ」
「えっ」
驚いた顔を見せる始果。なにせお互い秘密にしていたのだからまさか自分が貰えるのだろうとは思ってなかったのだ。
「ありがたく受け取りなさい!」
グレイスが作ってきたのは紺色のマフラー。普段は緑系統のイメージの始果にとっては少し新鮮なものとなっている。
「ありがとうございます!表現が難しいですが、とっても嬉しいです!」
珍しく始果の言葉も強くなる。自分が恋焦がれていた人からのプレゼントは宝物のように思えてくる。
「にしても、まさか始果がプレゼントを用意してくるとわね……驚かせてやろうと思ったのに」
「僕も同じです。でもプレゼントが貰えるって言うのは嬉しいですね。特に自分の好きな人から貰うのは」
「渡す前は不安だったけど杞憂だったわね。にしても始果はそれ一人で作ったの?」
「そうですね。調べて作りました。それこそグレイスは?」
「私はレイシスとかに手伝ってもらったわ。本当は一人でって思ったけどさすがに大変すぎたわ。それでね、手伝ってるときに……」
外の寒さも気にせず談笑しあい、冬の夜に舞う小さな雪吹雪に包まれながら幸福感を感じる2人。いろんな所へ行き遊んだが間違いなく今日一番素晴らしい時間であったのは言うまでもないだろう。
そんななかグレイスの携帯が鳴る。レイシス一行が打ち上げ最中で暇なら来ないか、という連絡だ。始果もいることと了承の意を返して向かう。
「みんな私たちのこれ見たら何て反応するかしらね!」
「驚いてくれると思いますよ。もし聞かれたらグレイスのこと自慢しときますね」
「やりすぎると恥ずかしいからほどほどにしときなさいよ?」
しばらく歩き店に着く。既に中からは騒がしい声が聞こえてくる。グレイスが勢いよくドアを開けた。
「待たせたわね!」
「お待たせしました」